同じ日々の繰り返し

雑誌の後ろのほうに載ってるどうでもいいコラムが大好きなので真似して書いています。あくまで私見です。

600字小説「羽音」

f:id:yuma_QJ:20200427175237j:image

 電話ボックスの明かりは魅惑的だ。はるか上空に輝く星々を人は好むが、わたしはこの明かりのほうが親しみがあって好きだ。静まった深夜の公園にひっそりと佇み光を放つその箱を見ると、わたしはつい引き寄せられてしまう。

  この夜が明けたら、ずっと気になっている女の子に自分の想いを伝えようと決めている。さっき決心した。勢いが肝心だ。いいとこ見せてやるぞ。他の男に負けるもんか。わたしは透明なガラスに反射する自分の躍起になった姿を見て、慌てて身だしなみを整えだした。


 どれくらい経っただろうか。身だしなみに夢中で、気が付くとあたりはぼんやりと明るくなり始めていた。地面を見下ろすと、赤や黄色の湿った枯葉が散っている。数日前から急激に冷え込み、季節はもうすぐ秋から冬になってしまう。どうりで最近、友人と顔を合わせる機会が減っているわけだ。
 「あの子はまだ元気かなあ」
 冷たい明け方の公園でわたしはぽつりと呟いた。呟いてからはっとした。誰かに聞かれていないだろうか。わたしはまわりを見渡した。恥ずかしい。思わず顔を足で覆いたくなった。


 もう一度、ガラスに映る自分の全身を見る。少し顔が火照っているが、体は汚れていないし光沢もばっちりだ。最終確認を終えたころ、電話ボックスの電灯が消えた。もうすっかり朝だ。
 「やってやるぞ、待ってろ」
 あの子へ想いを馳せながら、わたしは6つの足でガラスを勢いよく蹴り出し、けたたましく羽音を鳴らした。